2013年7月3日水曜日

戦術理解度とは何か?



よく、サッカー選手の評価をする際に使われる戦術理解度という尺度。

これはどういうことを意味するのかを考えてみたい。


サッカーは45分ハーフで戦う競技であり、試合中は局面局面で細かく監督が指示することは難しい。
したがって、普段からチームとしての目指すべき方向性、動き方のルール・約束事を決めておき、チームのパフォーマンスが最大化するように、それに基づいて忠実に動ける選手のことを戦術理解度が高いと言える。

しかし、試合は常に流動的であり、必ずしも予め決めたシナリオどおりにうまくいくわけではない。
基本的には戦術通りに動けたとしても、それを無視した判断を求められる場面は多数発生する。

つまり、そのルールに縛られすぎてもいけないし、自分勝手に行動してもいけないのだ。

その状況判断が的確にできる選手が、真に戦術理解度が高いと言える。


さらに言うと、監督の意図する動きができて、局面ごとに的確に判断しミスが少ない選手というのは、とても使い勝手が良い選手であり、レギュラーとして使いやすい選手となる。

言い方をかえると、重宝する選手ということだ。

また、プラスアルファのエッセンスを加えることができる選手はさらに特別な選手となる。


ビジネスの世界で言えば、以下の4パターンになる。

①言われたこともできない人、
②言われたことだけを忠実にできる人、
③言われたことをこなし、さらに少しレベルの高い品質で実行できる人、
④気を利かせすぎてやらなくていいことまでやってしまう人、

①は論外。
②は最低ライン。
③組織を動かす側からすると、最も使いやすい人材
④期待水準を大きく逸脱した仕事は、いくらそれが高いレベルであったとしても、かえって組織全体のパフォーマンスを低下させる要因になる。


③と④の違いは紙一重だ。
④はせっかく実力的には十分なのに、評価されないこともある。

いま、そのチームで与えられている役割はどういうことで、何をすべきなのか、その瞬間瞬間の判断力に優れ、それを具現化できるスキル・技術を持っている。しかも適度に。

こういう選手が戦術理解度が高く、監督が使いやすい選手と言える。


仮にゴールをあげたとしても、それが周りを無視した自分勝手なプレーだった場合、またはそのような行動を繰り返す場合、その選手はそのチームに不適切と判断されるかもしれない。
その選手が特別スーパーな技術を持っていて、完全にその選手中心のチームづくりをしていれば別かもしれないが、組織的な守備と攻撃が一体となる現代サッカーにおいては、おそらく通用しない。


さて、そのような戦術理解度は、技術と同じようにスキルアップは可能なのだろうか。

答えは簡単。それは可能だ。

ただし、鍛えるのは脳である。


当たり前の話だが、身体が動くのは脳が指示をしているからであって、勝手に動くわけではない。
反射的に身体が動いているとしても、それも全て脳が指示をしているわけだ。

この瞬間にはどのような動きをすれば良いのか、様々な局面でのシミュレーションから適切な行動を一瞬で導きだし、身体を動かすということになる。

超一流選手というのは、その判断基準があらゆる場面を想定して明確に確立しており、その判断基準をもとに、瞬時に的確な動きを実現できるのである。


つまり、超一流になるためには、技術的なスキルと合わせて、脳も超一流に鍛えなくてはいけないということだ。

ボールを蹴るだけ、走るだけ、では、本当の意味で上達しているとは言えない。

考えながらボールを蹴り、考えながら走るのだ。


オシムの目指すサッカーがそうだった。
なので、選手はとても疲れたという。

何も考えずに身体を動かすのは、身体的にはしんどいが、すぐに回復する。
しかし、頭をフル回転させながら身体を動かすと、疲労はその比ではない。

とくに、そういう状態に慣れていなければ、集中できる時間は限られてしまう。


競合国と日本の差は、実はこの点にあると僕は考えている。

つまり、普段から常に考えてプレーしている選手は、その状態が普通となって脳の耐久性が高まり、集中も途切れず、質の高いプレーが持続できるわけなのだ。

たとえば、スーパーサイヤ人2になるために、スーパーサイヤ人で日常を過ごすのに似ている。スーパーサイヤ人が日常になれば、普通に戦うだけで高いパフォーマンスが発揮できる。


日本選手が集中力を欠いたプレーをしてしまったり、少しだけプレーの判断が遅いのは、このような考えに基づいて、普段からプレーしていないからではないかと思う。

日本人プレイヤーでこのような動き方をしていると思えるのは、香川と遠藤くらい。

前田、長谷部、本田、今野もレベルは高いが、その点においてはまだ世界レベルとは言いがたい。


過去には、中田英寿や小野伸二、宮本恒靖などがレベルが高かった。
彼らは、非常に賢いうえに、よく考えている。

普段からより深く考えているために、プレーでそれが実践できる。


Jリーグや日本代表でも、こういうトレーニングをたくさんやったほうがいい。

一番良いのは、小学生や中学生くらいから徹底的に行うことだ。

ブラジルの選手たちのプレーレベルが高いのは、小さい頃から無意識的にそういう環境が普通にあるからだ。
たぶん、座学自体はやっていないが、周囲の大人が全員コーチみないな存在だから、判断基準と考えながらプレーするということが自然に身に付いているのだと思う。


鍛え方はいろんなやり方が考えられるが、たとえばこんな感じはどうだろうか。

・ポジション別にありとあらゆるシチュエーションを出題し、最適なプレーを瞬時に答えさせる。
・なぜそのプレーなのかを答えさせる。
・さらによいプレーがないか考えさせる。
・レベルが上がってくると、動き方をさらに具体的に細かくしていく
・身体の入れ方、シュートコース、パススピード、ドリブルの方向、オフザボールの動き方
・これを毎朝1時間毎日行う。
・その後の練習で復習しながら練習に取り入れる。
・導いた答えは、データベース化し、判断基準と動き方のマスターとしてブラッシュアップを積み重ねていく。
・動き方を可視化し、標準化し、さらに新しい良い考え方があれば上書きしていくという作業を繰り返していく。


実際やるとなれば、相当大変なことだろうが、1年も続ければものすごいレベルアップが図れるはずだ。

本を毎日1冊読む人と、全く読まない人では、1年後の思考力に雲泥の差がでるのと同じのことなのだ。


W杯まであと一年。

何とかこういう発想も取り入れてもらって日本代表にレベルアップしてもらいたい。